あなたのエッセイ集を見て、まず、すごいなぁー、という、言葉が出てきました。 あなたに、こんなユニークな編集、造本の才能があるとは思いませんでした。 中略 また、演習でも、注目された 「ラブレター」は、あらためて、面白さを感じました。 この、お父さんのラブレターをホームページでお母さんが公開しているというのもいい、 その、お母さんのことを知りたかったです。 |
「卒業制作」 感想 批評 主査 ○川○○ |
□□様 昭和○年6月22日
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結婚当初、彼らはお互いに仕事を持ち、成り行き上、別々の暮らしを強いられ、
週に2・3度しか会うことが出来ないという平安時代のような新婚生活をおくった。
そんな生活の中で、筆不精の父が母に宛てた、丁寧な手紙のひとつだった。
合理主義で正義感が人一倍強く、経験や実績を根底におき、
それを重んじる強情さを持つ父親の、「成るようにしかならぬ」という弱気な言葉は、
今の姿とはあまりに似つかわしくなかった。
石灰石・粘土・酸化鉄を焼いて粉末状にしたものがセメントとなり、
それに砂・砂利・水を調合し、化学反応をおこすことで、どろどろとしたセメントは、
何メートルもの建物を支える頑丈なコンクリートとなる。
仕事上、結婚生活での自分ではどうすることも出来ないもどかしさ。
自信家で融通の利かない頭でっかちな頑固者のその頭が、水和反応を起こす前の、
軟らかいセメント時代が、この父親にも存在していた。
それまでの父は常に強い人であり、
私が父のこのような人間味のある感情を目の当たりにしたのは初めてであったかもしれない。
あと何年かすれば、私も文面上の父親と同じ年齢に達することに、
私は一種の焦りのような感情を抱いている。どんなに自分を見直してみても、
将来に対する志は曖昧で、こだわれる実績も有るとは言い難いく、
また
そのような生活の中で、たった一人の人でさへきちんと大切にすることもろくに出来ないでいる。
生き方、志、恋愛、どれをとっても私は父に似るところはなく、
ただ気の短さと肌の白さを忠実に受け継いでしまったかぎりである。
まもなく、大学を卒業する節目の時期にあたり、
二十代の自分がどのような有り方なのかという尺度を与えられたように感じた。